放射冷却とプラズマの温度

Zピンチの収縮過程とホットスポットの形成について、放射冷却(Radiation Cooling)の重要性を指摘したのはJames E. Baileyです。天体の重力崩壊になぞらえて、放射崩壊(Radiative Collapse)ということばを用いる研究者もいます。

アルゴンプラズマ

すでに見てきたように、アルゴンを用いたZピンチでは、水素を混入しても温度はほぼ800 万度と変わりありません。この温度はどのように決まるのでしょうか。分光測定から、アルゴンプラズマではヘリウム様アルゴンイオンが支配的であることがわかっています。

ヘリウム様アルゴンイオンが支配的になるのは温度が500万度から1000万度の広い範囲にあります。リチウム様イオンがヘリウム様イオンになるときの電離ポテンシャルが918 eVであるのに対し、ヘリウム様イオンが水素様イオンになるときの電離ポテンシャルは4121 eVとかなり大きくなります。このポテンシャルギャップによって高温プラズマではリチウム様イオンまでは輻射冷却によって温度を押さえながら徐々に電離が進み、ホットスポットが形成されるときにヘリウム様イオンまで一気に電離が進みます。到達温度はヘリウム様イオンが形成されるときの電離エネルギーに近い値になっています。放電の途中で温度が上がってしまうと、プロパンや窒素の放電に見られたように不安定性が発生して強いピンチが形成されません。

ピンチプラズマの温度

ここからは推測ですが、ピンチプラズマの到達温度はリチウム様イオンがヘリウム様イオンになるときの電離ポテンシャル程度になることが予想されます。これによると、クリプトンピンチでは4000万度程度、キセノンピンチでは1億度のプラズマが達成されることになります。しかもこれはキセノンが100 %である必要はなく、少量を混合することで達成できることが期待されます。ネバダ大のワイヤZピンチの実験で、ワイヤの原子番号とともに温度が増加することが報告されています。